時価
法人税法の条文に「時価」と言う言葉を入れて検索すると「時価」と言う言葉が含まれた条文が数多く出てきます。その検索結果は本記事の末尾に記載してます。これだけ時価という言葉が出てきますが、時価は、法人税法上、明確に定義されていませんが、相続税財産評価に関する基本通達で時価の定義が以下のようにされています。
評基通1②「時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」
私見ですが、この定義は税法の世界で普遍的に通用するものと思料いたします。それでは、"不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額"の内容が問われます。その内容は「再調達原価(商品を再調達するのにかかるコスト)」あるいは「正味実現可能価額(商品を売却した場合に得られる収入)」と一般的に言われています。前者は買い手の立場から考えた価額で、後者は売り手の立場から考えた価額です。このほか、将来に得られると予想される収入から費用を差し引いたキャッシュフローを、一定の金利で割り引いた割引現在価値が時価を体現すると考える見方があります。つまり、当初の物の値段は立場によって異なり、一物一価ではありません。しかし、取引が行なわれる時点で初めて一物一価になります。そのプロセスは、独立した当事者間("不特定多数の当事者間"を"独立した当事者間"に読み替えます)で交渉して、合意のプロセスを必要とします。このようなプロセスを経て決まった価額は法人税法上、時価と見做されます。
この価格決定プロセスの当事者が支配・被支配関係にあった場合は、"不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合"の要件を満たさなくなります。そのような価額は時価とは言えません。支配・被支配関係とは、いずれか一方の法人が他方の法人の株式を50%以上所有する親子関係を言いますが、役員の過半数を一方の法人が他方の法人へ派遣している、売上あるいは仕入のいずれかにおいて一方の法人が他方の法人に依存している、資金を一方の法人が他方の法人から借入ているため、実質的に支配・被支配関係が生じている関係を言います。価額決定の当事者が支配・被支配関係にあった場合、そのような支配・被支配関係間で決まった価額は時価であることを当該当事者が立証しない限り、その価額は、時価でないと法人税法上は見做されます。ですから、時価が問題になるのは、支配・被支配関係にある関連者間で行う取引です。
企業買収に関ってきた専門家から「時価の算定とは、算術でなくて芸術である」と聞いたことがあります。各人各様、一物多価の事象を一物一価にするプロセスが時価の算定の本質ではないかと思料いたします。当に、先の専門家の言葉は至言です。
付言すれば、相続税・贈与税が対象とする当事者はすべて支配・被支配関係にある者です。相続税・贈与税は個人を対象としていますので、納税者に立証責任を負わすより、各納税者間での課税額に関る平仄を合わせる観点から、財産評価に関する基本通達で事細かに時価の算定方法が定められていると思料いたします。
法人税法の条文に「時価」と言う言葉を入れて検索した結果、該当する法人税の条文は以下の通りです。
法4の3(連結納税の承認の申請)、
法15の2(連結事業年度の意義)、
法31(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)、
法32(繰延資産の償却費の計算及びその償却の方法)、
法61(特定株主等によって支配された欠損等法人の資産の譲渡等損失額の損金不算入)、
法61の3(売買目的有価証券の評価益又は評価損の益金又は損金算入等)、
法61の7(時価ヘッジ処理による売買目的外有価証券の評価益又は評価損の計上)、法61の11(連結納税の開始に伴う資産の時価評価損益)、
法61の12(連結納税への加入に伴う資産の時価評価損益)、
法61の13(分割等前事業年度等における連結法人間取引の損益の調整)、
法62(合併及び分割による資産等の時価による譲渡)、
法62の3(適格分社型分割による資産等の帳簿価額による譲渡)、
法62の5(適格事後設立による資産等の時価による譲渡と株式の帳簿価額修正益又は帳簿価額修正損の益金又は損金算入)、
法62の7(特定資産に関わる譲渡等損失額の損金不算入)、
62の8(非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等)、法63(長期割賦販売等の係る収益及び費用の帰属事業年度)、
法67(特定同族会社の特別税率)、
法81の10(連結法人間取引の損益の調整)、
法81の13(連結特定同族会社の特別税率)、
法142(国内源泉所得に係る所得の金額の計算)