2012年7月アーカイブ

千倉書房HPに連載記事(全4回)を投稿した。当ブログにおいてもその記事を紹介する。今回はその最終回である。

 武田薬品工業は2012年4月6日、移転価格税制に基づき大阪国税局から受けていた追徴課税処分について、申告漏れと指摘された1223億円のうち約8割に当たる977億円を取り消す決定書を受け取ったと発表した(日本経済新聞2012年4月7日)。還付加算金を含め合計571億円前後の金額が還付されることとなる。このような大型課税案件で国税が異議申立を認めたことは、筆者の知る限り初めてである。そこで、武田薬品を例にして移転価格課税の問題点を検討してみる。

 なお、本集中連載で取り上げた移転価格課税案件の内容は、会社が公表したプレスリリース及び新聞報道された情報を筆者が収集し、解釈を加えたもので、あくまで個人としての意見である。

移転価格算定方法の妥当性

 武田薬品の移転価格課税は、武田薬品とTAP社間の利益配分において、武田薬品に対して過少に配分されているとの国税の判断がベースになっている。このことは、国税が採用した移転価格算定方法は、利益分割法であることを示唆している。

 海外の利益の多寡に応じて税収を上げるという強引な課税を推進する場合、租税特別措置法66条の4第2項に定める方法に従うことは、非常に難しい。

 措法66条の4第2項に定める方法では、独立企業間価格はまず、「基本三法という伝統的な取引基準法」で検討され、それが適用できない場合、はじめて「その他の方法」で検討することとなっている。

1) 伝統的な取引基準法

  • 独立価格比準法(CUP法):同種製品の独立企業間の取引価格を検討
  •  再販売価格基準法(RP法):米国の比較可能な同業の財務データに基づいて販売会社がどの程度の売上利益率を計上しているかを検討
  •  原価基準法(CP法):日本の比較可能な同業の財務データに基づいて製造原価に対してどの程度利益の上乗せをしているかを検討

2) その他の方法

  • 利益分割法(PS法)
  •  取引単位営業利益法

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 筆者の知る限り、2006年前後に行われた移転価格課税は、ほとんど残余利益分割法であった。そして、求められる手順を捨象して移転価格算定方法として残余利益分割法が採用されていた。

 2011年11月に日米課税当局間の相互協議が合意に至らず終了したもうひとつの理由は、国税の採用した移転価格算定方法が違法であるとIRSが解したことにあると推測する。

 

まとめ

 アドビ事件を例にとる。裁判所は、アドビ事件において国税が採用した算定方法を用いて独立企業間価格を算定した過程には違法があり、結局、措法66条の4第1項に規定する国外関連取引につき「当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たない」との要件を認めることはできないことになるから、(国税が採用した算定方法による)独立企業間価格を用いた本件各更正は違法であり、これを前提とする本件各賦課決定も違法であると判断をくだしている。

 アドビ事件は、移転価格訴訟において重要な判例である。この判例から、武田薬品の移転価格課税を検討すると、国外関連者の判定の過程に違法があり、これを前提とする武田薬品に対する賦課決定も違法となるとの判断が裁判所から下されると推測する。もし、本件が訴訟に持ち込まれた場合、国税が負ける可能性が高い。

 最後に、巨額な財政赤字が続く現状では、歳入確保のため、税金を取れるところから取るという裁量主義的移転価格課税が続くのではないかと危惧する。

千倉書房HPに連載記事(全4回)を投稿した。当ブログにおいてもその記事を紹介する。今回はその第3回である。

 武田薬品工業は2012年4月6日、移転価格税制に基づき大阪国税局から受けていた追徴課税処分について、申告漏れと指摘された1223億円のうち約8割に当たる977億円を取り消す決定書を受け取ったと発表した(日本経済新聞2012年4月7日)。還付加算金を含め合計571億円前後の金額が還付されることとなる。このような大型課税案件で国税が異議申立を認めたことは、筆者の知る限り初めてである。そこで、武田薬品を例にして移転価格課税の問題点を検討してみる。

 なお、本集中連載で取り上げた移転価格課税案件の内容は、会社が公表したプレスリリース及び新聞報道された情報を筆者が収集し、解釈を加えたもので、あくまで個人としての意見である。

国外関連者の範囲

 TAP社は50%以上(つまり、50%を含む)武田薬品に所有されているから、本邦移転価格税制上、国外関連者に該当するとする国税サイドの議論と、TAP社は50対50でアボット社と武田薬品が出資した会社であるから国外関連者に該当しないとする米国の税務当局(IRS)サイドの議論とがかみ合わなかったと想像できる。

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 米国の移転価格税制の下での国外関連者の定義は、「同一の支配下にある事業、団体、法人等」とあるのみで具体的な規定はなく、一般に法人間の取引であれば、50%超の持分関係(つまり、50%を含まない)にある2法人との解釈が用いられている。更に、TAP社との取引をめぐっては、2005年武田薬品はアボット社から「取引価格を高くして、不当に高い利益を得ている」として、損害賠償を求めて提訴されているという事実から考えると、TAP社は、米国の基準に従えば国外関連者ではないことは明確である。2011年11月に日米課税当局間の相互協議が合意に至らず終了した理由のひとつが、TAP社の取扱いに合意が見られなかったことにあると推測する。

 本邦の移転価格税制の事務運営指針を注意深く検討すると、やはり、TAP社は国外関連者に該当しないと言えるのではないかと考える。事務運営指針2-2(3)ロを引用する。

 【法人又は国外関連者が複数の者の共同出資により設立されたものである場合には、その出資者など国外関連取引の当事者以外の者が当該国外関連取引に係る取引条件等の交渉の当事者となる場合があること。また、当該交渉において独立企業原則を考慮した交渉が行われる場合があること

 (注) 国外関連取引に係る対価の額が厳しい価格交渉によって決定されたという事実、国外関連取引の当事者以外の者が当該国外関連取引に係る取引条件等の交渉の当事者となっている事実又は国外関連取引に係る契約の当事者に法人及び国外関連者以外の者が含まれているという事実のみでは、当該国外関連取引が非関連者間取引と同様の条件で行われた根拠とはならないことに留意する。】

 事務運営指針2-2(3)ロの条文解釈は、(1)共同出資により設立された法人との取引で、(2)その出資者と厳しい価格交渉があり、(3)そして決定した価格が、独立企業間価格で算定されていれば、当該ジョイントベンチャーを国外関連者として取り扱う必要はないと解する。

 

 TAP社の場合、以下のように判定される

(1)共同出資により設立された法人との取引である。

(2)その出資者と厳しい価格交渉があった。

(3)決定した価格は独立企業間価格であったと推定された。

 

 国税は、上記(3)の独立企業間価格であったという点を否定して課税したのであるが、国税が採用した移転価格算定方法に問題があったため、相互協議において、上記(3)の取扱いに関してIRSサイドの同意を得ることが出来なかったと推測する。国税の採用した移転価格算定方法について検討する。-次号に続くー

千倉書房HPに連載記事(全4回)を投稿した。当ブログにおいてもその記事を紹介する。今回はその第2回である。

 武田薬品工業は2012年4月6日、移転価格税制に基づき大阪国税局から受けていた追徴課税処分について、申告漏れと指摘された1223億円のうち約8割に当たる977億円を取り消す決定書を受け取ったと発表した(日本経済新聞2012年4月7日)。還付加算金を含め合計571億円前後の金額が還付されることとなる。このような大型課税案件で国税が異議申立を認めたことは、筆者の知る限り初めてである。そこで、武田薬品を例にして移転価格課税の問題点を検討してみる。

 なお、本集中連載で取り上げた移転価格課税案件の内容は、会社が公表したプレスリリース及び新聞報道された情報を筆者が収集し、解釈を加えたもので、あくまで個人としての意見である。

武田薬品の移転価格課税の問題点

 前号で引用した武田薬品のプレスリリース(2006.6.28)から窺い知ることが出来る問題点は、以下の3点である。

  • 米国市場から得られる利益に課税したこと。
  •  当該取引価格は、米国における合弁パートナー(50%所有)たる第三者の同意なしには決定し得なかったものであること。
  • 武田薬品とTAP社間の利益配分において、武田薬品に対して過少に配分されているとの判断を国税が下したこと。 

 上記の問題点の内、(1)米国市場から得られる利益に課税したこと、(2)取引価格は、50%所有する合弁パートナーとの同意が必要であることについて、興味ある記事が【月刊テーミス「税金申告漏れ続出の内幕武田薬品狙い撃ちは大阪国税局の焦り」】(2006.8)にあったので一部抜粋する。

【今回の武田薬品の例を、1998年に同じ移転価格税制を適用され、当時は同制度下で過去最高の課税額となった大手製薬会社の旧・山之内製薬(現・アステラス製薬)と比べてみると分かりやすい。

 旧山之内は、アイルランドの子会社との取引をめぐり、1997年3月期までの6年間に約541億円の申告漏れを指摘された。この際に問題になったのは、日本の法人税率が当時37・5%だったのに対し、アイルランドはさまざまな優遇措置を設けているため、日本より大幅に低い10%となっていることだった。

 旧山之内は「ガスター10」の商品名で一般に売られている、主力商品の胃潰瘍治療薬「ファモチジン」の製造・販売の権利を子会社の「山之内アイルランド」に与え、その際にロイヤリティー(特許使用料)を受け取っていたが、その額を不当に安くすることで、本来は同社が日本で申告すべき所得を、子会社に移したと認定されたわけだ。子会社が米国ならば問題にならない。

 次に疑問になるのは、旧山之内のケースが100%出資の子会社だったのに対し、武田薬品では合弁会社と50対50で出資した会社である点だ。

 旧山之内は「山之内アイルランド」に対するロイヤリティーが不当に低いとして課税されたわけだが、この際に争点となるのが「独立企業間価格」というもの。例えば、A社がB社に物や権利を売ろうとする場合、A社は最大の利益を得るための取引価格を設定するはずだが、B社側に所得を移転しようと考えた場合には、それを安くすることになる。移転価格税制は、後者を許さないための制度のため、国税当局は独立企業間価格で取引したかどうかを厳しく調査する。

 旧山之内が「山之内アイルランド」へのロイヤリティーが低いと判断されたのは、国税当局が他の関係のない企業とのロイヤリティーと比較して、そう結論付けたといえる。

 ところが、武田薬品に関して「取引価格が不当に低い」とした国税当局の判断は不可解だ。前述のとおり、TAP社は50対50で出資した会社だ。そのため、「TAP社に所得を移転すれば、パートナー企業のアボット社に半分持っていかれることになる」(武田薬品幹部)のだ。しかも、武田薬品にはTAP社に対する価格の支配権はない。

「取引価格を抑えて合弁会社の利益を大きくしても、利益の半分は持っていかれる。経済行為としてあり得ない」

 TAP社との取引をめぐっては2005年、武田薬品はアボット社から「取引価格を高くして、不当に高い利益を得ている」として、損害賠償を求めて提訴されているのだ。これでは「意図的に安い価格に抑えた」とする国税当局の判断とは逆になってしまう。】

 

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 武田薬品の異議申立を国税が認めざるを得ない状況について、移転価格税制の観点から更に検討する。-次号に続くー

 

千倉書房HPに連載記事(全4回)を投稿した。当ブログにおいてもその記事を紹介する。

 武田薬品工業は2012年4月6日、移転価格税制に基づき大阪国税局から受けていた追徴課税処分について、申告漏れと指摘された1223億円のうち約8割に当たる977億円を取り消す決定書を受け取ったと発表した(日本経済新聞2012年4月7日)。還付加算金を含め合計571億円前後の金額が還付されることとなる。このような大型課税案件で国税が異議申立を認めたことは、筆者の知る限り初めてである。そこで、武田薬品を例にして移転価格課税の問題点を検討してみる。

 なお、本集中連載で取り上げた移転価格課税案件の内容は、会社が公表したプレスリリース及び新聞報道された情報を筆者が収集し、解釈を加えたもので、あくまで個人としての意見である。

はじめに

武田薬品の移転価格課税の経緯を時系列的に述べる。

  • 2006年6月に、大阪国税局より武田薬品と米国ジョイントベンチャー(資本関係の無い米国法人が50%所有)との2000年3月期から2005年3月期の6年間の取引に対して移転価格税制に基づく更正処分がなされた。直ちに異議申立を行った。
  • 2008年7月に、移転価格税制に基づく更正処分による二重課税の解消を目的として相互協議を申請した。そこで異議申立を一旦中断した。
  • 2011年11月に、相互協議が合意に至らず、不成立となる。一旦中断していた異議申立を再開する。
  • 2012年4月に、大阪国税局より異議申立が認められた。

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武田薬品に対する移転価格税制に基づく更正処分は次の通りである。同社Newsrelease_2006.6.28)

 武田薬品と米国アボット社との50:50の合弁会社であるTAPファーマシューティカル・プロダクツ株式会社(以下「TAP社」)との間の2000年3月期から2005年3月期の6年間の製品供給取引等に関して、米国市場から得られる利益が、武田薬品とTAP社間の利益配分において、武田薬品に対して過少に配分されているとの判断により、大阪国税局は、6年間で1,223億円の所得金額を更正した。追徴税額は地方税等を含め、合計約570億円となった。

 武田薬品は、下記の理由から1,223億円の所得更正金額の妥当性を否定した。

  • 武田薬品には、TAP社に所得を移転する意図、動機が全く存在しないこと
  • 当該取引価格は、米国における合弁パートナーたる第三者の同意なしには決定し得なかったもので、その実質において独立企業間価格であり、移転価格税制が適用されるべきものではないこと
  • 武田薬品およびTAP社間の利益配分は適正であり、当局が算定した武田薬品およびTAP社間の利益配分額は、合理的とは考えられないこと

 武田薬品は、直ちに異議申立を申請した。 

武田薬品が移転価格課税された年度の状況

 武田薬品が移転価格課税された年度は、移転価格税制に基づく更正が続出した年である。下記は、当時の代表的移転価格課税案件(単位百万円)である。

年月

会社名

更生所得額

更生税額

対象取引

管轄国税局

2006年6月

武田薬品工業

122,300

57,000

医薬品

大阪国税局

2005年6月

TDK

21,300

12,000

電子部品等

東京国税局

2005年6月

ソニー

21,400

4,500

ロイヤリティ

東京国税局

2005年5月

日本金銭機械

3,400

1,600

紙幣識別機

大阪国税局

2005年3月

京セラ

24,300

13,000

電子部品等

大阪国税局

 

 このような移転価格税制に基づく更正ラッシュは、儲かっている企業から出来るだけ多くの税を徴収しようという意図が国税にあったのではないかと推測される。その理由は、上場企業の2006年3月期決算は、3年連続で過去最高の利益を確保しているが、その利益の多寡に応じて税収は上がらなかったからである。上場企業の好決算は、海外事業の好調ゆえに達成された場合が多い。国税は、巨額な海外利益に着目した。しかし、当時の法人税法の下では、海外の利益は日本に送金されない限り課税できないというジレンマがあった。送金されていない利益に課税する術は、移転価格税制に基づく課税である。

 海外の利益の多寡に応じて税収を上げるという意図は、必然的に国税当局による強引な課税がされるようになる。

 武田薬品の異議申立を、今回、国税が認めたことは、海外の利益の多寡に応じて税収を上げるという強引な課税が是正されたと考える。

 武田薬品の異議申立を国税が認めざるを得ない状況について検討する。-次号に続くー

 

若手公認会計士のみなさまへ!

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