2012年8月アーカイブ

  わが国の深刻な財政悪化を改善するため、消費増税は不可避な選択肢の一つであると多くの国民は考えています。今回の消費増税によって5%の税率が2014年4月に8%に、15年10月には10%に上がります。計算上は、消費税による10兆円余りの税収が倍の20兆円になるはずです。本連載では、消費税という税の本質から派生的に発生する問題を取り上げてみたいです。出来れば、その問題がもたらす影響をマイナスの影響でなく、プラスの影響に導くための税制改正についての提言もしたいです。

 

 TPPによる関税ゼロの落とし穴

 

 新聞紙上で、コンニャクの関税は1,706%、コメの関税は778%、砂糖の関税は305%と報道されています。日本が課する輸入関税は非常に高いとの印象を与えます。ですから、TPPに参加して関税障壁が取り払われれば、日本に入ってくる輸入製品の価格は安くなり、消費者にとってプラスの面が大きいと思わせます。しかし、それは大きな誤解です。

 

 日用品の輸入に関わる関税は、ほぼゼロから10%です。そして、多くの輸入品の関税は、既にゼロになっています。そして食卓に上る野菜の関税もゼロから3%なのです。極端な言い方をすれば、TPPに日本が参加した場合、関税障壁に関する問題で難航する品目はコメだけです。本稿はTPPに参加した場合のプラス、マイナスを議論することを目的としていないので、TPPに関する更なる議論は別の機会にしたいと考えています。本稿で認識して欲しいことは、仮令、TPPに参加してもコメを除いた輸入製品の価格はあまり安くならないということです。むしろ多くの輸入品の価格は消費増税によって値上がりします。3%の関税が課せられる野菜を輸入した場合を例にして説明します。また、輸入価格は100円とします。

 

  • 消費増税前の取扱い 

輸入価格                  100円

関税(3%)                     3

通関後の価格            103

輸入消費税(5%)           5

輸入価格                  108円

  •  消費増税後、TPPにより関税がゼロとなった場合の取扱い

 輸入価格                100円

関税(0%)                     0

通関後の価格            100

輸入消費税(10%)         10

輸入価格                  110円

  消費税で注目すべき点として、外国から輸入された製品は未だ販売されていなくても、日本で荷揚げされた時点で消費税が課せられることです。これが上記表で示した輸入消費税です。ですから、輸入商品は消費増税の影響が直接的に反映されます。現状の関税率の中央値が5%前後であることを考えると、TPPによって関税がゼロとなっても輸入商品の値下がりはあまり期待できません。

 

 蛇足ですが、TPPによってコメの関税778%がゼロになったら、コメの輸入価格は劇的に下がります。しかし、「農民を殺すのか!」の声をマスコミ、政治家が代弁することは、容易に想像できます。ですから、日本がTPPに参加しても、コメの関税がゼロになることはないと考えます。

 

 TPPによる関税ゼロに惑わされないことです。消費増税の影響を見落すと庶民は、大きな落とし穴に落ちてしまいます。

 

 本4回の連載で、今回の消費増税は、穴の空いたバケツに新たに水を入れるようなものであることがお判りいただけたと思います。しかし、穴の空いたバケツに水を注ぐ馬鹿はいません。消費増税が不可避な選択肢の一つであるなら、現状の消費税が抱える制度上の問題を解決すること、つまり穴の空いたバケツの穴をふさぐことが必要です。

 

 

わが国の深刻な財政悪化を改善するため、消費増税は不可避な選択肢の一つであると多くの国民は考えています。今回の消費増税によって5%の税率が2014年4月に8%に、15年10月には10%に上がります。計算上は、消費税による10兆円余りの税収が倍の20兆円になるはずです。本連載では、消費税という税の本質から派生的に発生する問題を取り上げてみたいです。出来れば、その問題がもたらす影響をマイナスの影響でなく、プラスの影響に導くための税制改正についての提言もしたいです。

 

食料品に対する消費税を軽減税率にすることの落とし穴

 

2012年7月10日の日経朝刊のコラム「大機小機」で食料品に対する軽減税率導入について取り上げていました。その一部を抜粋します。 

 【食料品に対する軽減税率を支持する人は多い。各種世論調査でも8割近い人が「消費税率を引き上げるのであれば、食料品に軽減税率を適用すべきだ」という考えに賛成している。(中略)

2011年の家計調査で所得階層別の消費支出を見ると、最も所得の低い第I階級は、可処分所得が月平均20万3190円で食料支出は4万703円である。この金額は所得が増えるにつれて増え、最も所得の高い第V階級は、可処分所得が62万204円で食料支出は8万4219円である。(中略)絶対額で見れば高所得層の方の食料支出金額が多いのだから、軽減税率の適用によって得をする金額も高所得層の方が多くなるのである。軽減税率を適用すれば低所得層(弱者)が助かることは間違いない。国民の目から見て分かりやすいとの意見もある。ただし、それ以上に高所得層(強者)に恩恵を与えてしまうという点を考えると、弱者対策という意味では、必ずしも効率的とはいえない側面もあるのではないか。】

 

可処分所得に占める食料品に支出する割合は、高所得者(第V階級は13.6%)に比べて低所得者(第I階級は20.0%)の方が高くなるので、低所得者ほど消費増税の影響を受けるという逆進性の議論に異論をはさむつもりはないですが、この逆進性の議論は額ではなく率で議論していることに注意する必要があります。仮に、低所得者対策として消費増税の影響を排除する目的で、食料品に対する軽減税率5%を導入すると、得する消費税は低所得者では、2,035円【第I階級40,703円×(10%-5%)】です。一方、高所得者では4,211円【第V階級84,219円×(10%-5%)】も消費税を節約することが出来ます。食料品に対する軽減税率の金額的恩恵は、低所得層より高所得層が受けることになります。食料品に対する軽減税率は、財政悪化の改善策として非効率な側面があることはお判りいただけたと思います。

 

それ以上に、問題提起したい点があります。それは、益税の問題です。従来から問題とされている益税がより肥大化する可能性があることです。(1)通常税率による課税売上、(2)軽減税率による課税売上、(3)非課税売上と、今まで以上に複雑な区分計算が必要となります。アカウント方式(帳簿方式)による消費税法は、益税を生み出す穴の空いたバケツと同様です。不備な制度をより複雑化する食料品に対する軽減税率の導入は、バケツの穴を更に広げるようなものです。抜け道が判ると、人はそれを利用するようになります。アカウント方式(帳簿方式)による消費税法の下での食料品に対する軽減税率の導入は、意図的益税作りの脱税事業者を作りだすことがあるのではないかと懸念しています。

 

正直者が馬鹿を見ない社会を作ることが大事と考えています。そのためにはアカウント方式を改め、益税を排除するインボイス方式に変更すべきです(インボイス方式の議論は、第2回記事「消費増税による1兆円の益税は誰の手に」をご参照ください)。

 

 

 わが国の深刻な財政悪化を改善するため、消費増税は不可避な選択肢の一つであると多くの国民は考えています。今回の消費増税によって5%の税率が2014年4月に8%に、15年10月には10%に上がります。計算上は、消費税による10兆円余りの税収が倍の20兆円になるはずです。本連載では、消費税という税の本質から派生的に発生する問題を取り上げてみたいです。出来れば、その問題がもたらす影響をマイナスの影響でなく、プラスの影響に導くための税制改正についての提言もしたいです。

 

 消費増税による1兆円の益税は誰の手に

  

 財団法人関西社会経済研究所の鈴木善充氏が「消費税における益税の推計」(『会計検査研究』第43号)という論文の中で益税を推計しています。それによりますと、消費税率の10%への引き上げが比例的に増加すると仮定するならば約1兆円規模の益税が毎年発生すると推計しています。

 

 益税とは、小規模事業者に係る納税義務の免除、簡易課税制度、仕入税額控除での95%ルールの取扱いから、消費者の支払った消費税が国庫に入らず、事業者の手元に残ってしまうことを言います。

 

 小規模事業者に係る納税義務の免除とは、課税売上が1,000万円以下の事業者は、消費税の納付義務が課されません。つまり、消費者が支払った消費税は、国庫に納められないで、小規模事業者の手元に残ります。これは脱税ではありません。消費税法で認められた措置です。

 

 簡易課税制度とは、課税売上が5,000万円以下の事業者は、簡易課税制度の届出をすることで、仕入税額控除の計算が不要となります。小売業であれば、消費者が支払った消費税の20%を納付すれば、消費税を適正に申告したと見做される制度です。実証的検証によれば、本来の消費税の計算方法で算定された納付すべき消費税額は、簡易課税制度で申告された税額より大きいです。つまり、その差額は、簡易課税制度を申請した事業者の手元に残ります。これも脱税ではありません。消費税法で認められた措置です。

 

 仕入税額控除での95%ルールとは、課税売上が5億円以下の事業者に対して適用されるルールです。当該事業者の課税売上割合が95%以上である場合、その課税年度に仕入れ等に関わる消費税全額を控除できます。消費税の基本の取扱いでは、控除できる仕入等に関わる消費税は、課税売上割合に対応する仕入れ等に関わる消費税であり、支払った消費税全額ではありません。最大5%の仕入れ等に関わる消費税が余分に控除できるため、消費者が事業者に支払った消費税を国庫に納めないで済みます。やはり、これも脱税ではありません。消費税法で認められた措置です。

 

 しかし、消費者が支払った消費税が国庫に納められないで、事業者の手元に残ること自体釈然としません。この釈然としない問題は、わが国が採用しているアカウント方式(帳簿方式)から発生しています。消費税の基本的な仕組みは、製造業者、卸売業者、小売業者と製品・サービスが移転するにつれて消費税が課されます。その負担が次々に転嫁され、最終的には消費者が負担することになります。その過程での課税の累積を排除するため、事業者は自分の売上げに係る消費税額から仕入に係る消費税額を控除した額を納税することになっています。この控除する消費税の計算は、仕入にかかる帳簿に記載した数値で事足りることとしています。問題は、事業者が記帳する帳簿の体裁や様式が様々なことから発生します。消費税を含めた金額で売上、仕入を記帳している事業者がいます。その事業者の売上と仕入に課税売上(仕入)と非課税売上(仕入)が混在する場合、正確に受取った消費税と支払った消費税を把握することができません。ですから、益税が生じる余地が生まれます。益税を無くすためには、アカウント方式は改めるべきです。

 

 消費税は、多くの国で採用されていますが消費税とは呼ばれないで、広く付加価値税と呼ばれています。極端に言えば、付加価値税を採用している国でアカウント方式を採用している国は、日本以外ありません。その他の国は、すべてインボイス(伝票)方式をとっております。台湾で採用しているインボイス(伝票)方式を参考にしながら説明します。

 【税務署からインボイス用紙を購入し、それは3枚つづりになっています。一枚は発行した会社控え、二枚を販売した会社に渡し、そのうち一枚を税務署に申告の際に添付します。
 つまり、税務署に全ての取引のインボイスが蓄積され、税務署内で反面調査が出来るため、このインボイスを発行したものを売上にあげないとすぐに税務署にばれる仕組みになっています。また、法人はこのインボイスがないと、税務上経費として認められません。このインボイスは連番になっていて、その番号が宝くじになりますので、個人の人も必ず受け取るようになります。宝くじの一等は日本円で約700万円ぐらいだそうです(参考資料KPMG「中華民国台湾投資環境案内2003/2004年度版」)】

 

 上記から推測されるようにインボイス方式の良い点は、益税の余地を無くすことです。正直者が馬鹿を見ない社会を作ることが大事です。消費増税の機会に、アカウント方式を改め、インボイス方式に変更すべきです。消費増税よって益税が増える事態は、厳に避ける必要があります。

 

 

 わが国の深刻な財政悪化を改善するため、消費増税は不可避な選択肢の一つであると多くの国民は考えています。今回の消費増税によって5%の税率が2014年4月に8%に、15年10月には10%に上がります。計算上は、消費税による10兆円余りの税収が倍の20兆円になるはずです。本連載では、消費税という税の本質から派生的に発生する問題を取り上げてみたいです。出来れば、その問題がもたらす影響をマイナスの影響でなく、プラスの影響に導くための税制改正についての提言もしたいです。

 

 派遣社員冬の時代へ 

 

 正規社員(正社員)と非正規社員(契約社員、パートタイマー、アルバイト、派遣社員)との間に賃金、社会保障の取扱いに差別があることが問題になっていますが、消費増税は非正規社員の内、派遣社員に厳しい事態が想定されます。“派遣切り”が今まで以上になされる可能性が増します。その理由は、給与の支払いは、消費税が課されませんが、派遣会社への支払いは、消費税の対象となるからです。

 

 多くの企業は、人件費カットのために積極的にアウトソーシングをしてきました。今回の消費増税は、派遣会社から派遣社員に支払われる給与は一定としても、企業が払う消費税込みの派遣費用は、確実にアップさせます。ですから、企業は“派遣切り”を考えます。“派遣切り”が契約社員、パートタイマー、アルバイト等の非正規社員、そして正規社員の雇用増大につながれば良いのです。しかし、人件費が低廉な新興国へのアウトソーシングを誘発あるいは、加速させてしまう可能性があります。その結果、雇用機会は、海外に流出して、失業者が町に溢れるという最悪のシナリオも考えられます。

 

 このような変化を見据えて、税の見直しが必要です。残念ながら、現政権や国会の議論には、そういった変化を見据えての税の見直し、経済政策の立案が検討されているように思えません。

 

 提案ですが、派遣費用は消費税法上、非課税にすること!これは、検討する価値があると解します。オフイスビルの賃借料は、消費税法上、課税対象ですが、個人が借りる住宅の家賃は、消費税法上、非課税になっています。それと同様な取扱いですので、必ずしも、制度上出来ない提案ではないと考えます。

 

 人材派遣業のビジネスは、2008年をピークに減少しており、2010 年度の市場規模は前年度比94.0%の4 兆4,500 億円でした。日本の労働人口の減少傾向を考慮すると、その規模が増えることはなく、なだらかな右肩下がりになると想像されます。人材派遣業のビジネス規模の4兆円を非課税にすることは、消費税4,000億円が徴収できないことを意味します。しかし、その政策は、4兆円の付加価値(派遣費用を付加価値とする)が日本から消失することを防ぎます。4兆円あれば一人当たり2百万支払って2百万人雇用が確保できます。若年層の人々2百万人近くの雇用を確保できることを考えると、失う機会コスト4,000億円以上の効果があると思います。明るい未来が窺える社会を作ることが大事と考えます。

 

 次回触れる予定にしていますが、消費税の益税問題を解決すれば、1兆円近くの消費税が徴収できます。つまり、バケツの穴をふさぐことで1兆円の消費税が捻出できるのです。派遣費用の非課税化は、歳入にとってマイナスの効果ですが、益税問題を解決することのプラス効果を考えると不可能な政策課題とは思えません。 

 

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