2012年10月アーカイブ

  ソブリンリスクとは、国に対する信用リスクのことをいいます。ソブリンリスクがもたらす悪夢があります。国債が債務不履行になることです。そこで、ソブリンリスクが高くなると債務不履行の懸念から国債の金利が高騰します。ギリシャ、ポルトガル、イタリアの経済危機は、それらの国のソブリンリスクが増したことに起因します。

  本邦では、ソブリンリスクを国債残高対GDP比で判定する傾向があります。特に財政再建を至上命題と考える財務省は、国債残高対GDP比の結果を公表することで国民の危機感を高めようとしています。財政再建先送り論がまかり通る今の政治状況の中では、国民の危機感を煽ることは止むを得ないことかもしれません。参考に国債残高対GDP比での比較をしてみます。その場合、日本はワーストランキングでダントツの第1位になります。日本の国債残高は、GDPの約2.3倍(2011年の統計数値による)です。ユーロの信認を危うくしているあのギリシャでさえ国債残高は、GDPの約1.6倍です。その他、ユーロ圏で経済危機が懸念されるイタリアは1.2倍、ポルトガルは1.1倍です。しかし、疑問が湧きます。何故、国債残高対GDP比ワーストランキング第1位の日本の国債の金利が高騰しないのでしょうか?

  この疑問に対する解答のヒントを、BSRI(BlackRock Sovereign Risk Index)が与えてくれます。これは、BlackRock社(世界有数のグローバル資産運用会社)が定期的に公表しているソブリンリスク ランキングです。BSRIは48か国の政府債務の信用リスクを分析したデータです。2012年7月に公表されたBSRIによると、ソブリンリスク ワーストランキング第1位はギリシャで、第2位はポルトガルで、イタリアは第6位でした。ちなみに第48位(いちばんソブリンリスクが低い国)はノルウェーでした。最後になりますが、BSRIで日本は第18位です。ほぼ同じレベルのBSRIの国は、インドネシア、南アフリカ、ブラジルでした。

  BSRIは、国債残高対GDP比のみならず、歳入額、歳出額、政府への信頼性、銀行システムの安定性、外人投資家への依存度、経常収支のプラス・マイナス等を勘案して決定されます。私は、BSRIを定量的に分析する情報を持っていません。やや乱暴ですが、日本の第18位を定性的に分析してみます。国債残高対GDP比でみると、日本がワーストランキング第1位であることは間違いないですが、それを良い方向に上げているのは、政府への信頼性が高いこと、銀行システムが安定していること、外人投資家への依存度が低いことと経常収支が黒字であることにあると考えます。このバランスが崩れない限り、日本の国債の金利が高騰することはないでしょう。

  私見ですが、日本のソブリンリスク ワーストランキング第18位がイタリアやポルトガルの方向にランキングがシフトする可能性は少なからずあります。少子高齢化に対する対応の遅れと反原発の動きが大きく影響してくるでしょう。少子高齢化に対処する施策として「税と社会保障の一体化」が議論されていましたが、現実は骨抜き状態です。今の政治における痛みを伴う改革の回避は、歳出額の膨張をストップさせることが出来ません。また、反原発の動きは、直ちに再生可能エネルギーによる発電に代替できるような錯覚を与えますが、現実は原発から火力発電へ電力供給のシフトです。既に増大する化石燃料の輸入により、貿易収支は赤字になっています。この赤字の影響は、ボディブローのように経常収支を悪化させます。日本のソブリンリスクをこれ以上悪くさせない施策に目新しいことはないのです。

  やるっきゃない・・です!

 

立命館大学でのオープン講座で講義することになりました。講義は、「移転価格税制の下での知的資産の取扱いについて」です。

OECDは、移転価格税制の下での知的資産の取扱いに関するディスカッションドラフト(公開草案)を本年6月に公表しました。この草案に対する公聴会がこの11月にパリで開かれます。

今回の講義は、OECDのディスカッションドラフトの中で議論している主要問題をケーススタディ形式で解説する予定にしております。本講義に参加する人が移転価格税制に精通している必要はありません。同税制を全く知らない方でも問題ないです。参加する人に求められる要件は、「知的資産の取扱いに興味がある」ことです。

関西地区在住の方にはお薦めのオープン講座です。ご都合のつく方は是非ご参加ください。

尖閣問題は簡単には解決しない!

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現代中国人の屈辱の歴史は、領土を失うことから始まった

 清朝末期は、中国が植民地化された時代でした。イギリスは中国からお茶を輸入するための代金の手当てのため、中国に麻薬であるアヘンを売りつけました。アヘン取引に懸念を抱いた清朝政府は、アヘンの輸入に制限をかけました。アヘン取引確保のためイギリスが起こした戦争が阿片戦争です。近代兵器に勝るイギリスに清朝は敗れてしまいます。その結果、1842年に清からイギリスに香港島が割譲され、1860年には北京条約により九龍半島が割譲、1898年には新九龍地区や新界地域の99年租借がなされました。更に、1894年には日清戦争が起こり、ここでも清朝は敗れてしまいます。その結果、台湾は実質的に日本の植民地となります。

 力を失った清朝に対して、死肉を漁るハゲタカのように西欧の列強国は、清朝を植民地化していきます。1896年から1898年にかけて満洲からモンゴル・トルキスタンはロシアの勢力下に、長江流域はイギリスの勢力下に、山東省はドイツの勢力下に、広東省・広西省はフランスの勢力下におかれました。

 清朝の崩壊時は、当に“中華ナショナリズム”がズタズタにされた時期です。最近、新聞の紙面で“中華ナショナリズム”なる言葉がよく使われますが、多分、各人各様の理解をしていると想像します。私見ですが、“中華ナショナリズム”とは「中華思想を至上のものとする愛国主義」と理解しています。中華思想とは、辞書「大辞泉」によれば、儒教的な王道政治の理想を実現した漢民族を誇り、中国が世界の中心であり、その文化・思想が最も価値のあるものであると自負する考え方で、中国史における外国からの政治的危機に際して、しばしば熾烈な排外思想として表面化し、それが転じて、自国(自文化)至上主義(優越主義)の考え方を意味しております。

 

中国共産党は、清朝の失敗を反面教師としている

 中国共産党は、清朝の失敗(弱体化した軍事力)を反面教師として、強い軍事力を行使すれば、失った領土のみならず新たな領土も獲得できると考え軍事力の強化を図っています。

 香港の返還交渉にあたっては、1982年9月の英中交渉の時には首相マーガレット・サッチャーに対し、鄧小平はイギリスが返還にどうしても応じない場合は、武力行使や中国本土から香港への水の供給の停止などの実力行使もありうることを示唆したと言われています。そして、ソ連、インドに対して領土問題で現実に武力行使しています。1969年アムール川の支流ウスリー川の中州であるダマンスキー島(中国語名は珍宝島)の領有権を巡って大規模な軍事衝突をソ連としました。また、同年8月にも新疆ウイグル自治区で軍事衝突が起こり、中ソの全面戦争や核戦争にエスカレートする重大な危機にまで発展しました。また、中印国境紛争の時も、1962年11月、中国は大規模な侵攻によりアクサイチン中国、インド及びパキスタンの国境が交差するカシミール地域)を中国の領土化し、現在に至っています。

 現代中国人の屈辱の歴史を考えると、尖閣諸島や南シナ海の島々の領有権を古来中国のものであったという論理を繰り返す中国共産党に対して、そして、解決のために軍事力行使することを容認する世論が醸成されることは止むを得ないと考えます。残念ながら、中華ナショナリズムは、領土問題で高揚します。

 以上を勘案すると、尖閣問題に対して中国が実力行使する可能性は少なからずあると思います。平和ボケした日本人は、中国が実力行使するはないと思いがちですが、そのように考えるのは、原発の絶対に事故はないと信じると同様に根拠のないことです。

 

国際社会を味方につける辛抱強い持久戦が必要

 尖閣諸島の先占(どの国にも属さない土地を先に支配する意思を示し行動すること)についての調査は、1885年に始まり11年かけた後、1895年1月に閣議決定で沖縄の一部となりました。それ以来、尖閣諸島の主要な島々を維持してきたのは主に日本の民間人で、一時は缶詰工場もあり200人を超える人々が居住していました。これら事実から、尖閣諸島の先占は日本にあることについて争う余地がないことは明白です。しかし、領土拡大のためには、軍事力の行使も辞さない中国に対して通じる議論ではないです。ですから、尖閣諸島の問題解決を中国との外交交渉で解決することは無理と考えます。

 中国と同じ土俵で張り合うのでなく、中国との違いを浮かび上がらせることを今後の外交の基本にすべきと考えます。忍耐強く情報発信すれば、国際社会は、中国との違いを理解してくれます。尖閣問題に対する日本の外交的対応は、中国に対してではなく、国際社会に対してすべきです。
 

 中華ナショナリズムとは比較にならないくらい日本国民の国家に対する愛国心、領土への執着心は薄いです。自分達と家族のために日本国は自分達で守るという気概が必要です。その気概とは、国際社会を味方につける辛抱強い持久戦を覚悟することと、万が一尖閣諸島で最悪の事態が発生した場合には、人的防波堤になる覚悟です。

 国民の覚悟が政治を動かしていくものと考えます。

 

環境税は、消費増税です! 

 

前回のブログ記事(その2)から、多くの方は石油諸税の金額の大きさにビックリしたと想像します。普段、私たちが買い物などの際に、価格の5%(消費増税後は10%)の消費税を負担します。これを一般消費税と呼びます。更に、個別消費税と呼ばれる消費税があります。これは、ある特定の物やサービスについてのみ課税される消費税です。石油諸税は、個別消費税に分類されます。石油諸税以外で個別消費税に分類される税金がいくつかあります。それは、酒税、たばこ税等です。 

石油諸税、たばこ税、酒税などの個別消費税の取扱いについて、国税庁のホームページから抜粋します。

【消費税の課税標準である課税資産の譲渡等の対価の額には、酒税、たばこ税、揮発油税、石油石炭税、石油ガス税などが含まれます。これは、酒税やたばこ税などの個別消費税は、メーカーなどが納税義務者となって負担する税金であり、その販売価額の一部を構成しているので、課税標準に含まれるとされているものです。】

 

税法の書き振りでは、多分、意味が良く判らないと思います。言っている意味は、「これら個別消費税は、購入した製品の原価の一部として取り扱い、物の原価と個別消費税の総計に対して一般消費税を課す」の意味です。このことは、個別消費税に一般消費税が課せられること(Tax on Tax)を意味します。前回のブログ記事(その2)で使用した例「ガソリンの価格1リットルあたり140円、これを50リットル給油したとして、ガソリン代7,000円プラス消費税(10%)700円の7,700円」を利用して、Tax on Taxを説明します。

  環境税と一般消費税forその3.png

  Tax on Taxの取扱いは、心情的に受け入れがたいですが、租税法律主義の観点からは、止むを得ないと考えます。個別消費税がなくなれば、Tax on Taxの取扱いは発生しません。そこで、個別消費税について検討いたします。

 

一般消費税と個別消費税のちがい 

一般消費税の場合は、税法に非課税とされるものを定めなければ、すべての製品・サービスが課税の対象となります。ですから、現行の5%でも一般消費税の税収は、12.8兆円になります。10%への消費増税後の一般消費税の税収は、26兆円前後になります。徴収する立場からは、ほとんどすべての製品・サービスが課税の対象となる一般消費税は非常に効率的です。

個別消費税について検討します。課税ベースの広い一般消費税に比べて個別消費税の場合には、法律に課税対象を定めなければ課税の対象となりません。ですから、課税対象を定める必要があります。ここから個別消費税の問題点が浮かび上がってきます。

  •  特定の製品・サービスを個別消費税の対象にする場合、対象にする理由が必要です。石油諸税が課されている主な理由は、道路を建設して社会インフラを充実させることでした。税金の使い道が特定されていることは、その予算の執行は監督官庁に任されることを意味します。その結果、特定の製品・サービスの許認可権を握る監督官庁は、強力な権益を手にすることができます。予算消化のため不要な工事をするというような税の無駄遣いが発生する余地があります。
  • 次に、課税の公平という観点から、生活必需品やそれに準じたものを個別消費税の課税対象から除外すべきであり、奢侈性の高いものほど税率を高くすべきであるという考え方があります。この考え方に同意しますが、具体的に何が奢侈性の高いものであり、何が生活必需品であるかを判断することは意外に難しく、恣意的な決定などを導きやすいです。政治的な理由などにより、新たな製品やサービス、とくに奢侈的なものを課税対象にし難いことが多いです。実際の個別消費税は、酒税、たばこ税、揮発油税、石油石炭税、石油ガス税、そして今回導入される環境税です。左記の個別消費税の課税対象は、皮肉にも、個別消費税の課税対象から除外すべき生活必需品やそれに準じたものです。

 

個別消費税はこれからも必要か

前節で議論した個別消費税の問題点、Tax on Taxが生じることを是とする税法の取扱いは、一般消費税が5%であれば許容されたものであったかも知れません。しかし、10%への消費増税の後、一般消費税による歳入金額は、12.8兆円から26兆円前後になります。このような多大な増税による国民負担を強いている時に、課税対象に問題のある個別消費税とTax on Taxが生じることを是とする税法を不問に付して、現状維持を図ることは認められないと考えます。

消費増税の下、個別消費税のひとつである環境税が導入されます。環境税の使い道について、国民不在・霞が関の論理優先が垣間見られます。新聞報道によれば、【環境税で生まれる新たな財源を巡る政府内の駆け引きも始まっている。2013年度税制改正で農林水産省はCO2を吸収する森林整備に税財源を、総務省は地方の温暖化対策への財源を求めている。ともにCO2の排出抑制策に使うことになっている環境税の使途を広げることが念頭にある。石油石炭税を繰り入れるエネルギー対策特別会計を所管する経済産業省などとの綱引きが激しくなりそうだ。】

 

環境税のみならず個別消費税の存続の意義を問う必要があると切に考えます。

 

環境税と石油諸税との関係は!?

 

ここで時計の針を2016年4月に進めてみたいです。2016年4月には環境税は完全実施され、消費増税も完全実施されて10%になっています。2016年4月に車を運転して、ガソリンスタンドでガソリンを給油したと想定します。その時、ガソリンスタンドの入口に示されたガソリンの価格は1リットルあたり140円でした。「オッ!これは安いぞ!」と50リットルの給油をします。代金は、ガソリン代7,000円プラス消費税(10%)700円の7,700円でした。7,700円の計算は容易くできましたが、1リットルあたり0.76円の環境税がどのように課せられているのか判りませんでした。そこで環境税の取扱いをしらべました。その結果、驚愕の事実がわかりました。

環境税と一般消費税forその2.png

  7,700円の代金の内、税金は700円ではなく3,530円もあるのです。内訳は、ガソリン税、石油石炭税、環境税(「石油諸税」と呼びます)の合計2,830円と消費税(10%)700円です。2,830円もの多額の石油諸税について検討します。 

多額の石油諸税は国の歳入のどれぐらいを占めているのでしょうか。この分析を2016年の予想予算額を使用して実施することは、当該予想予算額が手許にないことから無理です。そこで、現実に戻って、この分析が可能な直近年度の数値を利用することにします。分析可能な石油諸税の内訳は、2008年度予算案から入手することが出来ました。そこで2008年度予算案の数値を利用して行います。環境税がもたらす歳入は含まれていませんが、石油諸税の全体像は十分把握できると考えます。

 

石油諸税の国家予算に占める割合は・・・

この石油諸税の国家予算に占める割合はどのくらいなのでしょうか。2008年度(平成20年度)予算によれば、国税収入の合計は55兆1,399億円。内訳では所得税の29.5%、法人税30.3%、消費税19.4%に続き、石油諸税は6.9%という非常に高い割合となっています。ちなみに税金を飲んでいると言われる酒税は2.8%、タバコ税2.0%、また相続税の2.8%より遥かに多いことを国民の皆様は、ご存知でしょうか。また自動車関連という意味では、自動車重量税1.9%もあるので、石油+自動車では、8.8%も負担しているとも言えるでしょう。

 

 国税収入に占める石油諸税の割合.png

   

石油の税金は一体何に使われているのか 

 

石油諸税の税収使途.png

石油諸税が課されている主な理由は、道路を建設して社会インフラを充実させることでした。石油諸税の歳出は、一般会計を通して大部分が特別会計に移されます。上記石油諸税の使途、道路整備4兆600億円は、道路整備特金から支出されます。4兆600億円の予算の執行は監督官庁である国土交通省が行います。今の日本で道路建設・整備に4兆600億円ものおカネが必要であるとはだれも考えません。それでも、毎年、4兆円近い金額が道路建設・整備に使われていました。不要不急の建設が多くあったと想像されます。このような背景の下、2009年度より道路整備特金は廃止され、それら税金は一般財源化されました。

それら税金の一般財源化は正しい方向でしょうか!? そう、とは考えません。道路を建設して社会インフラを充実させるという目的をほぼ達成した現在、その目的税は廃止すべきと考えます。4兆600億円ものおカネを目的外に流用することは、許されることとは考えません。更に、憲法が定める租税法律主義の精神からも反する行為と考えます。 

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