2013年3月アーカイブ

2012年11月21日より千倉書房HPにて『富裕層の増税』という連載記事を書いております。当ブログにおいてもその内容を紹介します。

 

家計金融資産が1,510兆円について(その2)

 

 前回の記事で取り上げた「1,000兆円以上の金融資産は、少数の大金持ちが持っているのですか?」の質問に対する回答は、別の資料を分析することで可能となります。総務省が実施している「家計調査報告」が有用な資料と考えます。

 「家計調査報告」について述べます。直近の国勢調査(2010年)では2人以上の世帯は3,506万世帯でした。家計調査報告は、この世帯数を利用しております。3,506万世帯を母集団として統計的方法によりサンプル世帯を抽出します。そして、それら世帯に作成を依頼した家計簿の収入・支出の情報を集計した数値を加工して、3,506万世帯の金融資産の残高を推定しています。そこで集計された金額から全体を推定すると、日銀の「資金循環勘定」に計上されている現金・預金840兆円に近い数値になります。調査方法から考えるとその結果は概ね妥当と思います。「家計調査報告」の結果で興味ある内容があります。

   ● 2人以上の世帯の半数の貯蓄額は、991万円を下回っていること
   ● 2人以上の世帯の内約3分の2の世帯は、全体の貯蓄額の平均値
(1,664万円)を下まわること
   ● 世帯主が60歳以上の世帯では、貯蓄額が2,500万円以上の世帯が3分の1を占めること
   ● 4,000万円以上の貯蓄を保有する世帯は、全体の約10%で貯蓄全体の4割を占めること

 富裕層の増税連載番外編その2図表.png

 「家計調査報告」の調査結果が「100億円以上の貯蓄を保有する世帯は、全体の約0.1%で貯蓄全体の6割をしめる」となっていないことは、重要です。「家計調査報告」は、少数の大金持ちが富の大部分を保有していることを否定しています。むしろ、示唆していることは、世帯主が60歳以上の世帯の多くは、2,000万円以上の貯蓄があり、その結果、2人以上の世帯の貯蓄額の70%近くは、その世帯の貯蓄であるということです。

 日本の家計金融資産は、少数の金持ちに保有されるのでなく、団塊の世代からそれ以上の年代の手許にあることを「家計調査報告」の調査結果は示していると考えます。

 富の世代間不均衡を是正する時期にきているようです。

2012年11月21日より千倉書房HPにて『富裕層の増税』という連載記事を書いております。当ブログにおいてもその内容を紹介します。

 

家計金融資産が1,510兆円について

 

 連載「富裕層の増税」を読んだ読者から、「8,000万円以上の投資可能資産を所有する日本人が182万人もいることにビックリしましたが、8,000万円以上の投資可能資産を所有する日本人の金融資産の合計は、8,000万円に182万人を乗じるという単純計算によると145兆円です。この数値を見て疑問がわきました。日本人全体が持つ金融資産は1,400兆円と聞いています。残り1,000兆円以上の金融資産は、少数の大金持ちが持っているのですか?」という質問がありました。確かに、多くの人が抱く疑問ではないかと推測します。今回は、日本人全体が持つ金融資産(家計金融資産)に焦点を当てます。
家計金融資産の数値は、日本銀行が四半期毎に発表する「資金循環勘定」に記載されています。2012年9月末(速報)によれば、家計金融資産は1,400兆円ではなく、なんと1,510兆円です。その内訳は、次のとおりです。

現金・預金       840兆円
債券           33
投資信託        58
株式・出資金      87
保険・年金準備金   426
その他          66  
合計         1,510兆円

 

 資金循環統計における家計金融資産の推計に当たって使用しているデータは、銀行とか保険会社の決算書等の数値です。そのように公表されている計数が大半を占めることから、誤差はせいぜい数十兆円に止まるものと思われます。その意味では、家計金融資産残高1,510兆円という値は、かなり確度の高い数字であると考えられます。

 直近の国勢調査(2010年)によると総世帯数は、5,195万世帯です。家計金融資産が1,510兆円であるなら、世帯当たり家計金融資産は、約2,900万円(1,510兆円÷5,195万世帯)になることになります。本当にそんなに沢山あるのでしょうか。答えはYESでもありNOでもあると考えます。

 前述しました家計金融資産の算定の精度からかんがえるとYESであり、庶民感覚からするとNOとなります。庶民感覚からのズレは、二つの面から発生しています。ひとつは、日銀が使用している家計金融資産の内訳が庶民感覚からズレること。もうひとつは、何気なく使っている平均値が庶民感覚からズレる結果をもたらすことです。

 日銀の家計金融資産には、生命保険や企業年金・国民年金基金等に関わる掛け金、個人事業主(個人企業)の事業性資産などが含まれています。これらは、通常個人が必ずしも金融資産とは認識しないものです。銀行預金を以て家計金融資産の全てと考える庶民感覚からすれば、ズレる結果をもたらします。

 次に平均値について触れます。中学・高校での数学において、正規分布する母集団から導かれる平均値は有意であると習いました。しかし、我々の住む社会は、正規分布する母集団ではありません。数少ない金持ちと数多くの普通の人々が居るのが現実の社会です。次の例が参考になると思います。


家計金融資産
金持ちAさん世帯       1億円
普通の人Bさん世帯   530万円
普通の人Cさん世帯   500万円
普通の人Dさん世帯   490万円
普通の人Eさん世帯   480万円
合計         1億2,000万円

  上記データから世帯当たり家計金融資産の平均値を計算すると2,400万円(1億2,000万円÷5世帯)になります。しかし、2,400万円は、現実離れした数値です。非正規分布の母集団に平均値を使用することが間違いです。このような場合、中央値が解決の糸口を与えてくれます。中央値とは、世帯を金融資産残高の低い順から並べた時、すべての世帯の中央に位置する世帯の金融資産残高を言います。上記例では、上から3番目の普通の人Cさん世帯がすべての世帯の中央に位置する世帯ですので、その値は、500万円になります。2,400万円でなく500万円が世帯当たり家計金融資産の推定値であれば、庶民感覚に合う数値となります。

 以上の分析から推定できることは、家計金融資産1,510兆円の平均世帯当たり家計金融資産約2,900万円は、必ずしも正しくありません。世帯当たり家計金融資産の中央値を利用すると、1世帯あたり家計金融資産は、2,000万円とか1,500万円になるような気がします。

 本記事で述べた分析により家計金融資産の全体像はご理解いただけるものと思います。しかし、「1,000兆円以上の金融資産は、少数の大金持ちが持っているのですか?」の質問に回答するには至っていません。更なる分析を続けます。

連載:富裕層の増税 第10回

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2012年11月21日より千倉書房HPにて『富裕層の増税』という連載記事を書いております。当ブログにおいてもその内容を紹介します。

 

日本の富裕層に対する増税(その5)

 

 今回は、「給与所得控除」について検討いたします。2012年度の税制改正で「給与所得控除」の額に限度が設けられました。従来は「給与所得控除」の額に限度はありませんでしたが、限度の取扱いは、2013年から適用され給与収入が1,500万円を超える場合、給与所得控除の上限は245万円になります。

 富裕層の増税第10回連載図表.png

 課税所得は、給与収入から上記算式で算定された「給与所得控除」の額と基礎控除などの所得控除(控除金額は定額)を差し引いて計算します。私の給与が1,500万円とした場合、給与所得控除の額は、245万円になります。この金額が給与から差し引くことが出来ます。

1,500万円×0.05+170万円=245万円

 私の給与が5,000万円とした場合、給与所得控除の額は、算式によると420万円になりますが、給与所得控除の上限が245万円になりますので、差額175万円は控除することが出来ません。つまり、その金額だけ課税所得が増えることを意味しています。245万円の限度の設定は、当に富裕層に対する増税です。

 その影響は、所得税の最高税率を45%に上げる増税よりはるかに大きいです。最高税率45%の影響をうける納税者は、1万4千人あまりと本当に少数ですが、「給与所得控除」の限度の制限を受ける納税者は、80万人あまりと予想され比較になりません。これは真の富裕層に対する増税です。「給与所得控除」という非常に税務特有な取扱いゆえ、多くの人々の関心を引かないまま富裕層に対する増税が実施されたと考えます。伝えるべき報道をしないで大衆を誤解させるような枝葉末節の報道を続けるマスコミの弊害がこんなところにも現れている気がします。

連載:富裕層の増税 第9回

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2012年11月21日より千倉書房HPにて『富裕層の増税』という連載記事を書いております。当ブログにおいてもその内容を紹介します。

 

日本の富裕層に対する増税(その4) 

 

 富裕層に対する増税の記事をまとめている過程で気づいた点に触れます。それは、「所得税の実効税率」と「給与所得控除」です。今回は、「所得税の実効税率」について検討いたします。

 「所得税の実効税率」について、所得税の実効税率は所得階層が上がる毎に上がっていきます。課税所得1億円の人の平均実効税率は28.3%です。それは課税所得が1,800万円までは低い税率が課されるため実効税率は40%でなく、それより低くなるからです。常識的に考えれば、課税所得が100億円であれば、限りなく実効税率は40%に近づくはずです。しかし、実際は違う絵を描きます。実効税率は、課税所得1億円をピークとして、それを超えると反転して下がります。課税所得50億円超100億円のグループの実効税率は、実に13.5%という低い実効税率になっています。

 

 それは、株式等を譲渡した場合は、他の所得と区分して税金を計算する「申告分離課税」があるからです。「申告分離課税」を採用した場合、上場株式の譲渡の税率は10%(住民税3%を含む)、非上場の株式の譲渡の場合税率は20%(住民税5%を含む)と非常に低い税率の取扱いです。株式配当も同様な取扱いです。

 株式等の保有が富裕者層に偏っていることから、富裕者の中でも特に富んでいる人々が、「申告分離課税」でより富の積み上げが可能となることは、格差の拡大を増長し、社会的公正の観点から受け入れ難いと考えます。金持ち優遇税制と言って良い「申告分離課税」の大幅な見直しが必要と考えます。私見ですが、課税所得5,000万円以上に該当する富裕層の所得は、すべて「総合課税」として、「申告分離課税」は認めなくすることが望ましいと考えます。

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