2013年10月アーカイブ

千倉書房HPにて『「グローバル企業の行き過ぎた節税戦略」を検証する』という連載記事を書いております。当ブログにおいてもその内容を紹介します。

 

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グローバル企業の行き過ぎた節税戦略がもたらす現象をOECDは、“Base Erosion(「税源浸食」と訳す)”と呼んでいます。税源浸食の議論を進めるにあたって「BEPSレポート(注1)」とその翻訳(租税研究2013.5)を参考文献として利用しております。しかし、本ブログ記事は、かなり私見を述べています。ですから「BEPSレポート」の解説書とは考えないようお願いします。

 

今、日本の法人税の実効税率は38%です。一方、中国、マレーシア、ベトナムの法人税の税率は25%です。この現状を踏まえて、グローバル企業の行き過ぎた節税戦略に関するプロローグの議論を進めたいです。

 

【設定】

  • A社はIT関連機器を製造販売する日本企業である。
  • すべての研究開発、製造、販売を日本で行っていた。
  • しかし、日本の人件費が上がりA社製品の国際競争力が落ちてきた。1,000円で売れていた商品の価格はグローバル化したマーケットでは850円まで下げる必要性が生じた。
  • A社は生き残りを賭けて、本社機能のみを日本に残し、すべての研究開発、製造、販売機能をベトナムに移した。ベトナムの人件費は日本のそれの半分である。

 

【事業再編前の収益状況】

すべての研究開発、製造、販売を日本で行っていた時のA社の連結損益計算書は以下の通りです。

A社製品の国際競争力が落ちた状況の下、従来通りのビジネスモデルを続けていると次年度の売上は850まで減少し、発生するコスト900をカバーすることが出来ず、赤字に転落してしまいます。

 

【事業再編後の収益状況】

そこで、A社は生き残りを賭けて、本社機能のみを日本に残し、すべての研究開発、製造、販売機能を人件費が日本のそれの半分であるベトナムに移しました。


 

事業をベトナムに全面的に移したこと、つまり人・物・カネを移動させることによって、グローバルマーケットを失うことなしに事業活動を行うことが可能となります。税金の欄を注目して下さい。事業再編前の税金は38ですが、事業再編後の税金は25になっています。その結果、収益性も改善されています。一挙両得の効果があります。留意すべき点は、事業再編前の税金38は、法人税として日本政府が徴収できますが、事業再編後の税金25は全く日本国の歳入になりません。すべてがベトナムで支払われます。確かに税源は日本からベトナムに移転しています。日本の税収が減ることは日本国にとって由々しき問題ですが、グローバル企業の観点からすれば、やむを得ない選択と思われます。

 

(注1)「BEPSレポート」:OECD のレポート“Addressing Base Erosion and Profit Shifting”

 

千倉書房HPにて『「グローバル企業の行き過ぎた節税戦略」を検証する』という連載記事を書いております。当ブログにおいてもその内容を紹介します。

 

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新聞紙上を賑わしている最近の国際税務の話題は、グローバル企業の行き過ぎた節税税務戦略についてです。グローバル企業の行き過ぎた節税税務戦略を憂慮したOECDは、“Addressing Base Erosion and Profit Shifting”という表題のレポート(以下、「BEPSレポート」と呼ぶ)を2013年5月に発表しています。 

グローバル企業の行き過ぎた節税税務戦略は、6月の主要国首脳会議(G8サミット)でも取り上げられました。G8サミットの議長を務めるイギリスのキャメロン首相が『3つのT』(注1) を主要なテーマに掲げていました。『3つのT』の中でいちばん議論されたのが『Tax=税』であったことは、G8首脳宣言の『税』の部分が大きくハイライトされて報道されていたことからも明らかです。ハイライトされた報道のひとつを引用いたします。

 

【スタバ、アップル・・・多国籍企業の「税逃れ」 G8サミットで「監視強化」のウラ事情(J-Castニュース2013年6月18日)】
英国・北アイルランドで開かれていた主要国首脳会議(G8サミット)は2013年6月18日、首脳宣言に、多国籍企業の税逃れを防ぐための国際協調などを盛り込んだ。各国の財政事情の悪化で税収を少しでも上げたいという背に腹は代えられない事情が』背景にある。
ただ、一方で、先進国を含め、税率を低くすることで企業を誘致しようという競争は続いており、実効ある措置がとれるか、疑問視する声もある。

OECDが今月中にも課税逃れに対する行動計画
G8が企業による課税逃れを問題視する背景には、2008年のリーマン・ショック以降、各国の財政が悪化し、増税や社会保障の縮小など緊縮策を余儀なくされる国が増えていることがある。
具体的に課税逃れが問題になるのが、英領ケイマン諸島など法人税率などの低い租税回避地(タックスヘイブン)に設けたペーパーカンパニーへの利益移転。利益を生む商標権や特許権などの無形資産をここに安く売却、譲渡することで、権利使用料による収益をこのペーパーカンパニーにため込む。 利益が税率の高い先進国から、低いタックスヘイブンに移るので、企業グループ全体で支払う税金の総額は少なくできる。 
こうした事態の改善を目指し、今回のサミットでは、経済協力開発機構(OECD)と連携し、「多国籍企業がどこで利益を生み、税を払っているか」を把握する仕組み作りを進めることで合意した。OECDは6月中にも、課税逃れに対する行動計画をまとめる方針で、7月にモスクワで開く主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に報告する予定。具体的には、例えばタックスヘイブンのペーパーカンパニーへの特許権などの無償・格安での譲渡などが規制の対象になる見通しだ。以下―略

 

 
上記新聞記事で述べられているOECDがまとめる課税逃れに対する行動計画が2013年7月19日に公表されました。この行動計画は、G20からの要請で作成され、モスクワで開かれたG20財務大臣会議に提供されたもので、企業が税金を少ししか払わない、または全く払わないと言った事態を防止するための国内および国際的な手段を政府に与える15の特定の行動(注2) を明らかにしています。行動計画で概略が示されたアクションプランは、OECD全加盟国とG20諸国が対等な立場で参加する、OECD/G20共同プロジェクトによって今後18〜24か月の間に実現されていきます。 この行動が迅速に実施されることを確保するため、関係国が既存の二国間協定のネットワークを改良できるように、多国間協定も開発することとしています。

本連載記事は、何を以て行き過ぎた節税戦略と考えるのかに関する私見を述べます。そしてBEPSレポートが問題視している取引についても解説いたします。

 

(注1)1つ目の『T』は『Trade=貿易』、2つ目の『T』は『Tax=税』、3つ目の『T』は『Transparency=透明性』である。『貿易』については各国政府が厳しい財政状況をかかえ、大がかりな財政出動が難しい中で、G8各国の首脳は経済活性化のために、TPPやFTAなどを通じて自由貿易を促進することの重要性などについて意見を交換。次に『税』については、グローバル企業の行き過ぎた節税税務戦略、いわゆる『課税逃れ』にどう対応するかということを議論。最後の『透明性』は、発展途上国での資源開発などをめぐる汚職をなくすため事業の透明性を向上させるための対応について議論した模様。

(注2)15の特定の行動は以下の通りである。
1 デジタル化社会における税務上の課題への取組み
2 ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメント効果の無力化
3 タックスヘイブン税制の強化
4 利子支払い等を通じた税源浸食の制限
5 有害な税務プラクティスに対してより効率的対抗措置
6 租税協定の濫用防止
7 恒久的施設認定の人為的な回避行為防止
8 無形資産の移転価格とその価値形成との整合性を保証
9 移転価格決定におけるリスクと資本とその価値形成との整合性を保証
10その他のハイリスク取引の移転価格とその価値形成との整合性を保証
11税源侵食と利益移転に関する実例の収集、分析方法の確立と問題に対する行動指針の確立
12納税者の行き過ぎた節税対策の開示要求
13移転価格の文書化の再検証
14紛争処理メカニズムの効率化
15多国間枠組みの発展

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