2014年5月アーカイブ

収支が赤字であることと、損益が赤字であることは違うと前回説明しました。私は、日本が損益的に赤字であるかを直接知る情報を持っていませんので、その説明を状況証拠を利用していたします。国富の推移から類推いたします。

 

下記表を見て下さい。

*対家計民間非営利団体とは、営利を目的とせず家計に対してサービスを提供する団体で、私立学校、労働組合、政党、宗教団体、私立の社会福祉施設(介護保険に関するサービスは「サービス業」に分類)等が該当します。 

**上記表は、「平成24年度国民経済計算確報」(内閣府経済社会総合研究所、平成2014年1月17日公表)を利用して作成しました

 

正味資産の部分を参照してください。国富は3,000兆円あります。この3,000兆円は世界第2位であると言われています。2014年の1月の経常収支の赤字額1兆5890億円ですが、その赤字幅が大幅に拡大する事態ではなさそうです。むしろ、赤字幅は縮小する可能性があります。ですから、2014年通年の経常収支の赤字額はゼロから10兆円の範囲ではないかと推測します。3,000兆円の国富から考えると、そのような金額の経常収支の赤字にバタバタ騒ぐ必要はないように思います。

 

次に、正味資産の部分で興味ある点は、「一般政府」部門は△39兆円の債務超過状態にあることです。日本を会社に例えれば、優良部門である「家計(そのかなりの部分は居住用土地・建物で構成される)」とお荷物な不採算部門である「一般政府」がある会社です。不採算部門の赤字は、優良部門に付け替えれば問題の解決はできます。国レベルでできる赤字の付け替えの手段は、増税です。

 

本連載の結論ですが、現状の経常収支の赤字額でバタバタ騒ぐ必要はないが個人的意見です。しかし、債務超過に陥った不採算部門である「一般政府」のリストラは必要と考えます。リストラ無し更なる増税なしの状態が10年〜20年続くと、日本は、国内で調達できる資金に限界が生じる状況になるかも知れません。企業であれば、キャッシュフロー不足による黒字倒産です。黒字であっても倒産した企業の資産は、常に叩き売りされます。その時、3,000兆円の国富は著しく目減りするでしょう。

2. 経常収支1兆5890億円の赤字を複式簿記の原理で分析

2014年1月の経常収支の赤字額1兆5890億円の中身を複式簿記の原理に基づいて分析します。前回説明しましたように、経常収支は下記の取引の収支から算定されます。
借方                            貸方

* 輸入                          * 輸出

* 代金の支払                * 代金の受取

 

複式簿記の原理に基づいて各取引を借方、貸方にそれぞれ同額計上します。


(借方)非居住者に対する債権の増加 5兆5166億円(貸方)輸出 5兆5166億円

(借方)輸入 7兆8620億円(貸方)非居住者に対する債務の増加 7兆8620億円

  • 輸出額から輸入額を差し引いた金額、「貿易収支(△2兆3454億円)」と呼んでいます。

 

(借方)代金の支払4674億円(貸方)非居住者に対する債務の増加 4674億円

  • 代金の支払とは海外旅行等の費用、これらは「サービス収支(△4674億円)」と言われます

 

(借方)非居住者に対する債権の増加 1兆2238億円(貸方)代金の受取 1兆2238億円

  • 代金の受取とは、海外からの配当金、ローヤリティ等の収益、これらは「所得収支(1兆2238億円)」と言われます。

 

「貿易収支(△2兆3454億円)」、「サービス収支(△4674億円)」、「所得収支(1兆2238億円)」を合計したものが経常収支(△1兆5890億円)になります。

 

日本は輸出・製造業モデルから消費・非製造業モデルに変わりましたので、貿易収支(輸出-輸入)が赤字になることは避けがたいと考えます。貿易収支の赤字を補填するに十分な黒字の所得収支がある場合は、経常収支が黒字になりおカネが海外から送金されます。ですから、誰が考えても問題ないと考えます。一方、今回のような貿易収支の赤字が増大することにより経常収支が赤字になると海外に送金しなければならなくなります。つまり、外国から借金する状態になることを意味します。借金体質になることに問題ないのでしょうか。

 

ここで注意すべき点があります。収支(資金の流れ)と損益(取引から発生する利益あるいは損失)は似て非なるものです。貿易収支が赤字であると、損益も赤字であると即断してしまいますが、それは間違いです。

 

物を輸入して外国に代金を支払う金額が、物を輸出して外国から受け取る代金を上回る時、貿易収支は赤字になります。注意すべき点は、輸入された物は国内において販売されて利益を生みます。また、国内で生産した製品は輸出され利益を生みます。つまり、貿易収支は赤字でも、損益は黒字になるのです。

2014年1月の貿易収支に損益の概念を入れたら、輸入した7兆8620億円の原材料等は日本で製品化され、そして、販売されて利益を生むのです。また、日本で生産されて輸出された5兆5166億円の製品からも利益は生まれます。

 

一般的に言えることは、利益が出ている会社が借金してもその会社が破綻することはないです。しかし、赤字の会社が借金したら倒産の危機に瀕します。日本はどうなのでしょうか?日本が損益的に黒字ならば、貿易収支が赤字であっても、結果として経常収支が赤字であってもそんなに心配しなくてよいのかもしれません。残念ながら、手許にある資料では、貿易収支にかかわる損益の額を推定することは出来ません。

 

次回(最終回)は、日本は赤字体質か否かを別の観点から考察してみたいです。

日本の経常収支の赤字が定着しそうな様相を呈してきました。その状況に対して、新聞各紙がそれぞれ独自の報道をしています。一例として、毎日新聞2014年03月16日【社説:経常収支の変調 競争力の回復が急務だ】を引用します。

「政府の国際収支統計で、月間の経常収支の赤字額が急激に膨らんでいる。1月は1兆5890億円の赤字で、過去最大だった。4カ月連続の経常赤字も初めてだ。輸入が伸び、貿易収支の赤字が急拡大していることが原因だ。冬場は燃料輸入が多い。円安が進み円換算の輸入額が急増している。消費増税前の駆け込み需要に伴う輸入増も重なった。 だが、一番の問題は輸出が頭打ちになっていることだ。日本経済は円安で簡単に輸出が増える体質ではなくなっている。こうした産業構造の変化を直視すべきだ。後略」

 

日本の経常収支の赤字に関して、危機感を煽る報道と楽観的見通しをする報道とが入り混じり百家争鳴で良く理解できません。そこで、経常収支の赤字を会計士的観点から分析してみました。

 

1. 国際収支は複式簿記による記帳記録

2014年1月の国際収支に関わる取引計上分から大幅な見直しが行われました。これはIMFの国際収支マニュアル第6版に準拠するための変更です。これからの説明は新しい基準に基づくものです。国際収支は、(1)経常収支、(2)金融収支、(3)資本移転等収支、(4)誤差脱漏で構成されています。また、集計される金額の小さい資本移転等収支と誤差脱漏は、重要性の観点から今回の説明では省略しています。

 

国際収支の算定は、複式簿記の原理に基づいて各取引を借方、貸方にそれぞれ同額計上します。

主なる借方項目と貸方項目は以下の通りです。

借方                                  貸方

* 輸入                                * 輸出

* 代金の支払                      * 代金の受取

**  非居住者に対する債権の増加  **  非居住者に対する債権の減少

**  非居住者に対する債務の減少  **  非居住者に対する債務の増加

 

経常収支は、輸入、代金の支払(海外旅行)、輸出、代金の受取(海外からの配当やローヤリティ)を集計[1]したものです。経常収支の赤字とは、輸入+代金の支払>輸出+代金の受取になった状態を言います。

 

金融収支は、非居住者に対する債権の増減、非居住者に対する債務の増減を集計[2]したものです。

 

具体的に示します。

輸出:自動車の輸出が100億円あった場合は、海外から輸出代金が送金されます(非居住者に対する債権の増加と取扱います)。

輸入:燃料輸入が200億円あった場合は、海外に輸入代金を支払います(非居住者に対する債務の増加と取扱います)。

 

収支を計算します。

  • 輸出と輸入の取引から発生する収支=100億円-200億円=△100億円
  • 金融収支=非居住者に対する債権の増加-非居住者に対する債務の増加

        =100億円-200億円=△100億円

 

この例での輸出と輸入の取引から発生する収支△100億円、金融収支△100億円の意味するところは、「輸入が輸出を100億円上回ったため、非居住者に対する純債務が100億円増加することになった」です。

 

次回は、2014年1月の経常収支の赤字額1兆5890億円の中身を分析します。


[1]借方項目と貸方項目の内、*で示した項目

[2]借方項目と貸方項目の内、**で示した項目

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