日本企業の持続的な成長と企業価値の向上のための税務(連載1)

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月刊「国際税務」6月号に拙稿「日本企業の持続的な成長と企業価値の向上のための税務」が掲載されました。

クリックすると当該記事が読めます。

国際税務に関する啓蒙記事の執筆を出版社から依頼されました。私は何を啓蒙するかを考えました。その結果、ROE、実効税率、税務戦略をキーワードにしながら税務が日本企業の持続的な成長と企業価値の向上に資するものであることが啓蒙することと考えました。

ご一読下さい。

コメント(2)

村田先生

企業がグローバル連結税引き後利益を極大化しようとしたときに「改正タックスヘイブン対策税制」が障害になります。これはOECDの高税率先進国(日米独仏など)がカルテルを組んで各国の法人税引き下げ競争を阻止しようとするものですが、リーダー格の米国がトランプ税制改革によって法人税率を35%から15%に引き下げれば、米国がタックスヘイブンになってしまい、日独仏は梯子を外された格好になり、パナマ文書によって注目された改正タックスヘイブン税制は鼎の軽重を問われることになるでしょう。
これからの変化、グローバル企業としての対策を是非分析してください。

村田先生 新たな連載記事をとても愉しみにしております。早速第1回目を拝読しましたが、一点だけ気懸りなことがありました。それは、ROEを分解して、最後に「ROE=収益性×効率性×健全性」と表現されたことです。この中の「健全性」は「財務レバレッジ」(総資本/自己資本)を指していますので、むしろ「不健全性」だと思われます。また、この点にこそROEを経営目標とすることの陥穽があると小生には思われます。この際、「ROE8%以上の目標」によって「日本企業の持続的な成長と企業価値の向上」がもたらされるのか否か、検討しておくことが大切だと思いましたので、小生の所見を述べさせて頂くことにしました。
(1)ROEと「財務レバレッジ」の関係
収益性と効率性が一定と仮定すれば、「財務レバレッジ」(総資本/自己資本)が大きくなるほどROEは大きくなります。つまり「自己資本比率」(自己資本/総資本)が低くなるほどROEは大きくなります。「自己資本比率」が低い会社ほどROEが大きくなりますが、これを「健全」だと言えるでしょうか。後述のとおり、やはり「不健全」と見ておく方が好いのではないでしょうか。
(2)ROE向上策:「財務レバレッジ」を高める
一定規模の会社が、一定の利益を上げ、一定の配当と内部留保を継続して行けば、「自己資本比率」は高くなり、逆に「財務レバレッジ」が低くなるため、ROEは逓減して行きます。そして、これが健全な企業成長の姿だと思います。これに逆らってROEを高めるために「財務レバレッジ」を維持ないし高めようとすれば、毎期「当期純利益」を全て配当するか、自社株買いによって自己資本を減らすか、つまり株主還元を大きくする方法を採らざるをえないことになります。
(3)ROE向上策:収益性×効率性を高める
   「収益性×効率性を高める」と言う場合の「収益性」は当期純利益/売上高(売上高利益率)、「効率性」は売上高/総資本(総資本回転率)のことです。これは一般的にどの会社でも取り組んでいる経営の内容です。ただ現今の日本企業にとって、国内需要が低迷し、海外生産比率が高まったことを念頭に置けば、それぞれの改善は至難の業と言うべき現実があります。したがって過去20年余の歴史が示すように売上高利益率の向上のために採られた方策は、専ら人件費の削減(国内における低賃金化と海外生産による低賃金活用)でした。なお、現在進行中の方策も変わりません。アベノミクスは「働き方改革」と言う看板で、「労働者の流動化」を更に進めようとしています。既に非正規雇用拡大(無期限化:「生涯派遣社員」)のための法律がつくられ、これからは「正規雇用の流動化」(「多様な働き方」の看板で、3年超の有期雇用、地域限定、職種限定、プロジェクト限定など)も行われようとしています。一言で言えば、解雇自由で不安定な雇用に加え、アジア並みの賃金に収斂させてゆく経団連の意向が反映されています。残念ながら、人材派遣事業の解禁以来、日本が誇った製造業においてすら「生産性向上」は機械化・自動化、創意工夫による改善などによる能率向上よりも、雇用代替による「低賃金化」が主力になったと感じます。これに消費税増税、低金利下での利息収入減なども加わって労働者と年金生活者の購買力が低下し、国内需要が一層冷え込みました。各企業が競って「収益性×効率性を高める」ために「低賃金化」の行動を採ったことによって、日本経済全体の成長が阻害されたのですが、ROEの目標設定は、この事態を一層悪化させかねません。
(4)「ROE8%以上の目標」がもたらす経営の不健全化
東京証券取引所が昨年6月から「コーポレートガバナンス・コード」を適用開始して以降、自社株買いと大幅な増配会社が増えたように感じます。米国では利益を超える株主還元が通常化するとともに、配当以上に自社株買いが重視され、多額の社債発行による負債拡大で自社株買いをしてROEを高めていると言われます。日本でも自社株買いが株式発行を大きく上回り、もはや株式市場は企業へ資金を提供するのではなく、企業から資金を吸い上げるようになっています。株式公開している企業が、ROEを大きくするために、わざわざ借金(社債発行)し自社株買いするのは本末転倒であり、経営の安定性・健全性を損なうことになるでしょう。
(5)ROEの本質的な問題点
それでは、「ROE=収益性×効率性×不健全性」でありながら、なぜROEが持ち出されたのでしょうか?それは、ROEの目標設定があると、「株主還元」を大きくせざるをえなくなるからです。つまり、買収ファンドや機関投資家などが日本企業に蓄積される利益を吐き出させる便利な道具になるのです。今や日本の上場株式の3割以上が海外投資家に保有されており、日常の株式売買の7割を海外投資家が占めるとのことです。短期的視点で、活用されていないと看做される内部留保(長期保有株主の持分であった過去の内部留保まで含めて)を吐き出させる。これが狙いなのです。本来「企業の持続的な成長」に不可欠の研究開発投資には、何十年もかけてようやく花開き実を結ぶものもあります。しかし、経営指標をROEにすれば、そのような悠長なことは許されないでしょう。また、これまで企業経営の安定的拡大の有力な手段であった経営の多角化なども、M&Aの標的とされ、解体され、労働者も整理・解雇される近視眼的な経営がさらに強まるでしょう。つまり、「中長期的な企業価値向上」という看板にも拘わらず、短期志向の経営を強いられ、「企業の持続的な成長」を犠牲にして、懸命に株主還元に励み、痩せ細る将来の日本企業、しかもその中で低賃金に喘ぐ大多数の労働者の姿が目に浮かばないでしょうか。
(6)まとめ
  [1] ROEの分解式には「財務レバレッジ」が含まれており、ROEを経営目標とすれば、「財務レバレッジ」を高めることによって、企業の健全性を損なうことが危惧されます。
[2] アベノミクスで演出された円安(株高)が円高に転じれば、企業業績も悪化し、ROE向上のためとして、「海外生産依存」と「国内の低賃金化」が加速されることが懸念されます。
[3] アベノミクスは、禿鷹ファンドなども「世界で一番活動しやすい国」にしようとしています。ROE経営で健全性を失った企業は、M&Aの標的とされ、解体・切り売りされ、労働者の整理・解雇が常態化することが懸念されます。
[4]企業の持続的な成長にとっては、長期的視点で富を創り出すために、耕し、種を撒き、育てることが何よりも肝心です。そのために不可欠なものは「企業の健全性」と「労働者」です。日本の「少子化」の原因は、労働者が自らの再生産と次世代の労働者の再生産(結婚して子供を産み育てること)を行なうのに充分な賃金を得ることが出来ていないことにあります。また、「日雇い派遣」のような働き方では、創造的な「労働者」に育つことは不可能ではないでしょうか。ROE経営が「不安定な雇用」と「低賃金化」を加速するならば、「日本企業の持続的な成長」は望めないのではないでしょうか。
[5] ROE経営によって「株主還元」を大きくすることは、日本が戦後営々と築いてきた富もこれから創り出す富も易々と海外投資家へ貢ぐことを意味します。つまり企業価値を喪失するのですから、「企業価値の向上」など望めないのではないでしょうか。なお、国家間の関係でみれば、米国の要請に唯々諾々と応えて、日本の国富を米国等へ移転させることになります。
[6] 「ROE8%以上の目標」によって「日本企業の持続的な成長」も「企業価値の向上」も望めないだけでなく、日本経済は衰退の一途を辿ることが懸念されます。小生が、ROEを経営目標にすることには「陥穽」がある、と述べた所以です。アベノミクスは、この面から見ても、TPPと同様に「亡国の経済政策」と思えるのです。

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